10.「 血脈 」
ホームページを見ていただいた方からのメールでの問い合わせにお答えしたものです
メールありがとうございます。
「血脈」の件ですが、「亡くなった時にお寺から「血脈」を戴いて仏様に供える」とのことですが、
これは基本的に違います。
仏の戒律を守り、清らかな生活をすることを約束し、
仏(仏法)に帰依(きえ・全身を投げ出すこと)することにより、戒名をいただくのです。
その証として血脈をいただくことができるのです。
本来は生きている間に戒名をもらい、血脈を受持するのが本来なのです。
○○さんは血脈を見たことがないとのことですので、
まず、血脈というものについてご説明をいたしましょう。
血脈とは、血の脈と書きますが、10cm四方ほどの大きさの紙で包まれた物です。
その中には、仏教をお説きになったお釈迦さまから ― その弟子である摩訶迦葉(まかかしょう)大和尚 ―
その後を受け継いだ 阿難陀(あなんだ)大和尚 というように
多くの弟子たちが正しい仏法を血の脈のように連綿と受け継いできた系図が書かれております。
その系図の線が赤い線で書かれているのですが、一番最後に自分(それぞれ)の名前が書かれ、
そこからまたお釈迦様の方に向かって線がつながれます。
ですから、最初と最後が結ばれ、身体の中の血のように一つの流れになっているため、
血脈といわれているのではないでしょうか。
私の寺の住職でお釈迦様から数えて85代目になります。
私の住職から『戒法(かいほう)』を受けた方は、お釈迦様から数えて86代目の弟子となり、
そこからお釈迦様に赤い線が結ばれるのです。
それぞれの寺院のご住職が檀信徒の方にこのように仏法を受け継いでいるのです。
○○さんのご住職も曹洞宗であれば同じはずなのです。
『戒名』はご存知だと思いますが、この『戒名』というのは『戒法』を守る約束をすることによりいただく
仏の弟子となったあかしとしての名前をいただくのです。
この『戒法』について、次にご説明いたしましょう。
お釈迦さまはお亡くなりになるとき、多くの弟子たちに最後の説法をしました。
その中で、「私の死んだ後は、何よりも戒法を敬い尊ぶ生き方をしなさい。
そうすれば、人生は明るく、心豊かに暮らせるのだ」と示され、
「戒法を敬い守って行くならば、私が生きているのと変わりがないのだ」とまでさとされました。
曹洞宗では、『戒法』は、深い信仰に根ざした生活を送ろうという決意を促す教えであり、
戒律を受けることによって「無益な殺生などはできない(不殺生戒・ふせっしょうかい)」
「人に対して嘘はつけない(不妄語戒・ふもうごかい)」というように、
慈悲の心が生活の中で習慣となり、人間として正しい生き方が確立されると説かれています。
『戒』は、正しい生き方をし、お釈迦様さまとの約束を守り、
自発的に仏行(ぶつぎょう・仏としての行い)を実践することが大事なのです。
大乗仏教ではこれを「菩薩戒(ぼさつかい)」と呼んでおり、曹洞宗もこの立場に立っています。
そして曹洞宗では、「菩薩戒」を大きく十六通りに筋道をたてて、
この十六条の戒法を実践することによって戒がたもたれるとされております。
十六条の戒法とは、
「三帰戒(さんきかい)」・・・帰依仏(きえぶつ)・帰依法(きえほう)・帰依僧(きえそう)、の3つの戒。
「三聚浄戒(さんじゅじょうかい)」・・・摂律儀戒(しょうりつぎかい)・
摂善法戒(しょうぜんぼうかい)・摂衆生戒(しょうしゅじょうかい)、の3つの戒。
「十重禁戒(じゅうじゅうきんかい)」・・・「第一不殺生戒(ふせっしょうかい)」・「
第二不偸盗戒(ふちゅうとうかい)」・「第三不貪婬戒(ふとんいんかい)・第四不妄語戒(ふもうごかい)」・
「第五不(酉+古)酒戒(ふこしゅかい)」・「第六不説過戒(ふっせっかかい)」・
「第七不自讚毀他戒(ふじさんきたかい)」・「第八不慳法財戒(ふけんほうざいかい)」・
「第九不瞋恚戒(ふしんいかい)」・「第十不謗三宝戒(ふぼうさんぼうかい)」、のことです。
それぞれの戒の意味についての説明は長くなるので省略いたします。
長い説明となりましたが、このように生きているうちに『戒法』を受けるには
授戒会(じゅかいえ)という儀式がありますが、なかなかその機会にめぐり合う事ができず、
お葬式の時に(亡くなってから)戒名と血脈をいただく人が多いわけです。
私の寺でもそういう方がほとんどを占めている現状です。
生前にその様な戒法を受ける機会に接していただければと思います。
戒を受けるということは、お釈迦さまのお弟子となり、真の仏教徒としての自覚を持(たも)ち、仏心の花を開くことです。
戒律を自覚したその証として「血脈」を授かるのです。
菩提寺で血脈を見たことがないとのことですが、疑問です。ご住職に直接お尋ねしてはいかがでしょうか。
東照寺副住職 合掌
他にも質問がありましたらメールをください。できるだけお答えしていきたいと思っています。